テレワーク導入に際してよくある課題とその解決策について解説!取組事例等もご紹介いたします。
はじめに
東京都は、令和 3 年 3 月に策定した「未来の東京」戦略で、2030 年度までに都内企業のテレワーク導入率を 80%にする目標を掲げ、これまで積極的にテレワークの普及を促進してきました。
新型コロナウイルス感染症の5類移行後、一部の企業で「出社回帰」の動きが見られている一方、コロナ禍の経験を経て、多くの従業員はテレワークという働き方を継続したいと考えているという調査もあります。
多くの企業が、生産性の向上やライフ・ワーク・バランスの実現を目指し、テレワークと出社とを組み合わせたハイブリッドワークを模索している中、特に中小企業においては、テレワークを導入する際にさまざまな課題に直面し、テレワーク導入が進んでいない現状があります。
本稿では、中小企業がテレワークを導入するにあたり直面する課題とその解決策を考察し、最後に東京都が提供するテレワーク関連事業を紹介します。
中小企業が抱える課題
1.インフラの整備不足
中小企業において最も大きな課題の一つが、IT インフラの整備不足です。多くの企業が、テレワークに必要な設備やセキュリティ対策が整っていないため、導入に踏み切れない状況にあります。例えば、VPN やリモートデスクトップの設定が不十分であったり、在宅勤務時には社員が私用の PC を使って業務を行うケースが多く、セキュリティリスクが高い傾向にあります。
2.コストの問題
テレワークを導入するためには、ITインフラの整備やセキュリティ対策、新たなツールの導入等が必要です。導入には一定のコストがかかり、中小企業にとっては大きな負担となります。また、テレワークに適したオフィスの改装や、機器等の購入費用も課題となります。
3.社員のスキル・知識不足
テレワークを円滑に進めるためには、社員がICTツールやテレワーク環境での業務に習熟している必要があります。しかし、中小企業では、ITに詳しい人材が不足している場合も多く、テレワークを導入したものの、上手く運用できないというケースも散見されます。新しいツールの使用やデジタルコミュニケーションのスキル不足が、業務の効率化を妨げる要因となり得ます。
4.セキュリティリスクへの懸念
テレワーク環境においては、不正アクセスやハッキング等による個人情報や企業の機密情報の漏洩といったセキュリティリスクへの対処がこれまで以上に強く求められます。中小企業では、これらのセキュリティリスクへ対処する体制の整備が大企業に比べて遅れていることも多く、中小企業がテレワークを導入する際の障壁となっています。また、自宅やオフィス以外の場所で勤務する場合は特に対策が必要です。
5.テレワーク規程(規定)の整備が困難
テレワークを導入するには、単に機器等を整備するだけでなく、テレワーク時の労働時間の管理や費用負担の有無等を定めたテレワーク規程(規定)を定めることが望ましいとされています。中小企業ではそのような業務に対応できる人材が限られており、テレワーク規程(規定)の作成のノウハウがなかったり、検討時間が十分とれず、規程(規定)整備まで手が回っていないという課題があります。
6.社員同士の繋がりや企業文化への影響
テレワークの導入により、対面でのコミュニケーションが減少することで、社員同士の繋がりや企業文化が希薄化することを懸念する声もあります。特に中小企業では、社内の一体感やコミュニケーションを重視する傾向があるため、大きな問題となることがあります。また、近年では、テレワーク時の孤独感等に起因する社員のメンタルヘルスや運動不足による身体的な影響もクローズアップされています。
7.テレワーク導入に対する経営層の抵抗感
テレワークを導入する上で、従来の業務プロセスや働き方を大きく変革することは避けて通れません。中には、このような変化に対して忌避感を示す経営者も存在します。中小企業では、経営者の意向が強く反映される傾向もあり、このような経営者の意向がテレワーク導入の妨げとなっているケースも見られます。最初から全社的にテレワークを導入するのではなく、可能な部署・業務から少しずつ導入して、随時、効果等を検証することが大切です。
課題に対する解決策
1.ITインフラの強化
まず、セキュリティ面で信頼性の高いVPNやクラウドサービスの導入を検討することが重要です。また、各社員に業務専用のデバイスを提供し、個人のPCを業務に使用しないようにすることで、情報漏洩のリスクを軽減できます。中小企業向けの安価なITソリューションを利用しつつ、インフラを整えることが有効です。具体的には、仮想デスクトップやリモートデスクトップ、VPNアクセス等で、社外から社内へのデータにアクセスする方法や、社内LANに入らずクラウドのグループウェアやストレージサービスにアクセスして業務を行う方法などがあります。
2.コスト削減の工夫
中小企業がテレワークを導入する際、テレワーク用通信機器やシステムなどの準備に多額のコストがかかります。そのコスト負担を軽減するには、テレワークの導入や推進を図る企業向けの国や自治体の補助金・助成金を利用することも有効です。たとえば、テレワークに必要な通信機器やICTツールの購入費、就業規則の変更にかかった費用の一部などが支給対象となりますので、助成金や補助金をうまく活用しましょう。
3.社員のITスキル向上
社員に対して定期的なIT研修やオンラインセミナーを提供し、ITスキルの向上を図ることが重要です。基本的なツールの使い方から、テレワーク環境での業務の進め方や留意点等に関する研修を行うことで、円滑にテレワークを実施させることが可能となります。また、社内相談窓口を整備することで、技術的な問題が発生した際にも迅速に対応できる環境を構築することができます。
4.セキュリティ対策の強化
セキュリティのリスクを軽減するためには、社員全員にセキュリティ教育を実施し、基本的なセキュリティ対策(パスワード管理、フィッシングメールの認識、二段階認証の導入など)を徹底することが重要です。中小企業向けのセキュリティサービスも多く提供されており、それらを活用してリスクを最小限に抑えることができます。それ以外にも、テレワーク実施者向けのセキュリティチェックリストを作成し、テレワーク時に都度チェックを求めることも有効です。
5.テレワーク規程(規定)の整備
厚生労働省や商工会議所がテレワーク規程(規定)のひな形を公開しているので、まずはその内容をベースに作成してみることをお勧めします。また、まずは必要最低限の規程(規定)を作成し、運用後に段階的に改善を加えることも有効です。社会保険労務士や行政相談窓口を活用して対応を進める場合には、公的なテレワーク導入支援事業の活用も検討しましょう。
6.社員同士の繋がりや企業文化の維持に向けた施策
テレワークで希薄になりがちな社員同士の繋がりを維持するためには、定期的なオンラインイベントやチームビルディング活動を取り入れることが有効です。また、リーダーシップ研修やコミュニケーション強化のためのプログラムを導入し、テレワーク環境でも社員同士の繋がりを強化する仕組みを構築することも重要です。また、ストレスチェックのほか、毎日の朝会や、週1回の上司との1on1ミーティングの実施、会議前後の雑談タイムなど、コミュニケーションタイムをあえて設定しておくことで、テレワーク実施者のモチベーションを維持し、状態を把握することが大切です。
7.経営層への意識改革
テレワークの導入をスムーズに進めるためには、経営層自身がテレワークの利点を理解し、企業全体にメリットがあることを認識することが重要です。成功事例を紹介したり、外部のコンサルタントを通じて情報提供を行うことで、経営層の意識改革を促すことが解決策となります。
東京都のテレワーク関連事業(令和6年度現在)
東京都では、上記課題の課題解決に役立つ中小企業向けの支援策を数多く提供しています。以下はその一例です。
① コンサルティング事業
② 補助金・助成金
③ 相談・情報収集
④ 取組事例の紹介
⑤ セミナー・イベント
⑥ 参考
おわりに
中小企業がテレワークを導入する際の課題は多岐にわたりますが、公的な支援施策等も活用しながら、適切な対策を講じることで、円滑なテレワーク導入が可能です。生産性の向上や働き方改革を実現するためにも、テレワーク導入を実現しましょう。