ABWとTBW その特徴と違い
Activity Based Workingとは
2000年代に入り世界中の企業で徐々に採用されるようになったActivity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング)(以下ABW)。その始まりは、1990年代にオランダのコンサルティング会社「Veldhoen + Company」が、オフィス空間の効率的な利用と生産性向上を目指して、従来の働き方を見直す試みとして生まれました。
日本では、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより働き方や働く意識が大きく変わったことが影響し、導入企業が増えていますが、その背景には、テクノロジーの進化とモバイルデバイスやクラウド技術の普及により、リモートワークやハイブリッドワークの環境が整ったことも大きく寄与しています。
ABWとは、その時々の業務や活動に応じて、最適な場所や環境を自由に選択できる柔軟な働き方です。オフィス設計においては、従来の固定されたデスクが並んだオフィス空間にはない柔軟性が求められ、集中エリア、共同作業エリア、リフレッシュエリア、ミーティングルームなど、異なる用途に合わせたスペースの提供が必要になります。
個人作業は静かなスペースで、グループディスカッションは共有スペースでと、一日の中でも業務に合わせて場所を変えたり、プロジェクトのメンバーが隣同士の席で一緒に作業するなど、工夫次第でいろいろな使い方ができるのもABWのメリットです。また、場所だけでなく時間についても業務に応じて最適な時間を選ぶことができるため、仕事とプライベートのバランスが取りやすくなります。
一方で、柔軟になるがゆえの注意点もあります。まず、社員には自己管理能力や自律的な働き方が求められます。また、業務に適した環境下で働くことで個人の生産性は高まりますが、働く場所がバラバラになることで、情報共有やコミュニケーションが減り、チームとしての結束が希薄になる、エンゲージメントが低下するおそれがあるといったデメリットも指摘されています。
ABWを導入したものの、個人ワークの比重が増し、コミュニケーションや横連携がなくなった、オフィスにまったく来ない社員がいるなど、組織としての機能が危うくなり、結局従来通りの固定席に戻したという企業も少なからずあります。
Team Based Workingとは
ABWと並んで最近注目されているのがTeam Based Working(チーム・ベースド・ワーキング)(以下TBW)。20世紀半ばから後半にかけての組織論やマネジメントの進化のなかで、チームワークが組織の成功に不可欠であり、チーム単位での作業が生産性を高めるとの認識が広まると、製造業やソフトウェア開発、プロジェクト管理の分野で発展してきました。
現在、チームが物理的な場所に縛られず、リモートで協力し合うことが可能になったことでTBWはより柔軟な働き方やプロジェクトに適応できるモデルとして、また、イノベーションを推進する重要な要素として認識が拡がっています。
TBWでは、個々のスキルや知識を最大限に活かしながら、チーム共通の目標や目的を達成すべくメンバー全員が協力するため、チームとしてのパフォーマンスが向上し、創造的な解決策が生まれやすくなります。さらに、効果的なチームワークができれば、組織全体の生産性や創造性も大きく向上させることが期待できます。
ただし、TBWにも注意点はあります。チームベースの働き方ではコミュニケーションが重要ですが、多様な意見が出る分、対立が発生しやすくなります。また、チームベースといえども、各メンバーには自立と責任が求められますが、チームへの甘えから個々の責任が曖昧になりやすいとも言われています。
ABWとTBWの違い
ABWとTBWは、どちらも現代の職場環境でよく取り入れられる働き方ですが、働き方の軸が個人にあるのかチームにあるのかに大きな違いがあります。ABWは個人の働き方の柔軟性に重点を置いている一方で、TBWはチーム単位での協力や共同作業に重点を置いた働き方で、特にプロジェクトベースの仕事や、創造的なコラボレーションが必要な場面で効果を上げています。
働く場所や環境にも大きな違いがあり、ABWでは、物理的なデスクやオフィススペースに縛られず、場所を自由に選択できることが基本です。また、リモートワークや外出先でも仕事をすることが推奨されます。対してTBWでは、チーム作業が中心となるため、チーム全員が集まるスペースやコミュニケーションのしやすい環境が重視されます。オフィスであれば、チームが集まりやすいエリアやミーティングルームが重要な要素となりますが、リモートワークの環境下でも、オンライン会議やチャットツールを使って緊密に連携することが求められます。
ABWとTBWはそれぞれ異なる強みがあり、状況や業務に応じて使い分けることで、組織の生産性や効率性の向上につながります。ただし、柔軟な環境を整備したり、チームがいつでも集まれる場をつくるだけではうまくいきません。そもそも、なぜその働き方に挑戦するのか…、ABWやTBWによって何を実現したいのか…、といった導入の目的を明確にし、社内に浸透させることが不可欠です。よくある失敗例に、ABWやTBWの導入を目的にしてしまうケースがあります。その場合はメリットよりデメリットばかりが注目され、「できない」「今の方がいい」といったネガティブな意見に押し切られてしまうこともあります。
ABWもTBWも働き方の一形態なので、自社のミッションやパーパスの実現手段であっても、目的にはなりえません。まずは目的の共有・浸透を第一に行い、その上で環境とともに、運用ルール・制度を整え、そこで働く人の意識を変え、必要なスキル習得をサポートする。型(運用ルール、制度)・場(オフィス、ツール)・技(意識、スキル)の3つの軸で改革を進めていくことが、働き方改革には不可欠なのです。