育児介護休業法改正内容について
令和6年5月24日、育児や介護と仕事の両立を支援し、働きやすい環境を整えることを目的とした「育児介護休業法」の改正が国会で可決・成立しました。
今回の改正では、子どもの年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充や、介護離職を防止するための「テレワーク努力義務化」をはじめ、テレワークの活用に関する新たな規定が盛り込まれており、日本の少子高齢化問題に向け、男女ともに仕事と育児・介護を両立するための制度を強化する内容になっています。
育児・介護と仕事の両立の必要性
日本の少子化問題の一因として、若い世代が子どもを持つことに対して「収入や生活水準が低下する経済的リスク」と捉えていることが挙げられます。また、超高齢社会に対応するため、仕事を続けながら介護と両立できる環境整備も重要です。人口問題は時間との戦いであり、企業が結婚、就労、出産、子育てをしやすい環境を構築することが急務となっています。
育児介護休業法等改正の概要
前回(令和4年)の改正では、「出生時育児休業(産後パパ育休)」の創設など、男性の育児休業の取得促進がクローズアップされていました。今回の改正は男女ともに、仕事と育児・介護の両立支援を強化し、柔軟な働き方の実現が目的とされています。
改正内容は大きく3つ、1つ目は子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充。2つ目は育児休業取得状況の公表義務の拡大と、次世代育成支援対策の推進強化。3つ目は介護離職防止のための両立支援制度の強化です。
こちらは子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充のポイントについて、施行日で色分けした図になります。青色部分が現行制度、緑色部分が令和7年4月1日改正、橙色部分が令和7年10月1日改正という2段階の施行日による改正となっております。
令和6年9月現在、下記の厚生労働省「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法 改正ポイントのご案内」が最新のリーフレットとなっております。
厚生労働省「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法 改正ポイントのご案内」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001259367.pdf
今後、「育児介護休業法のあらまし」など、詳細な資料も公開される予定です。
厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし(令和6年1月作成)」
※令和6年9月現在、令和7年改正は反映されておりません。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/000103504.html
育児介護休業法等改正におけるテレワーク
これからの育児・介護と仕事の両立支援においては、働き方のニーズが多様化する中、テレワークが大きな役割を果たすことが各種統計により示されています。今回の改正では、両立のための柔軟な働き方として、テレワークの活用を含めた働き方の選択肢や育児・介護期のテレワーク努力義務など、テレワークに関する措置が各所に盛り込まれています。
子が3歳未満におけるテレワーク努力義務
具体的には、「3歳に満たない子を養育する労働者がテレワークを選択できるように措置を講じることが企業の努力義務となる」という点が挙げられます。この規定は、子どもが3歳になるまでの間、企業ができる限りテレワークを提供する努力をすることを求めています。
「努力義務」は法的に強制される「義務」とは違い、企業ができる限り努力することが求められるものであり、罰金罰則が科せられるものではありません。しかし、テレワークが努力義務として法定化されることで、企業はより積極的にテレワークの導入を検討する必要があります。
子が3歳未満における短時間勤務制度の代替措置としてのテレワーク
また、「子が3歳未満の時期における、短時間勤務制度の代替措置」として「テレワーク」が選択肢に加わりました。短時間勤務制度は現状も義務化されており、始業時刻の変更等(フレックスタイム制、時差出勤、保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与)が代替措置として認められていましたが、改正後は「テレワーク」もその選択肢の一つとなります。これにより、育児中の社員が短時間勤務からフルタイムに切り替えることも可能になるなど、キャリアを中断することなく仕事を続けやすくなります。
子が小学校就業前までの柔軟な働き方の選択肢としてのテレワーク
さらに、小学校就業前までの柔軟な働き方を実現するための措置が義務付けられることになり、始業時刻の変更、テレワークの実施、保育施設の設置、新たな休暇の付与、短時間勤務制度の中から、従業員に二つ以上の選択肢を提示し、従業員が選択することで、各自のニーズにより適した働き方を選べるようになります。
介護期におけるテレワークの努力義務
今回の改正では、介護離職防止のための個別の周知・意向確認、 雇用環境整備等の措置が事業主の義務となります。また、3歳未満の子を持つ労働者と同様に、要介護状態の対象家族を持つ労働者がテレワークを選択できるように、できる限り配慮し、テレワークを提供できるようにする努力が求められます。
さいごに
令和7年から順次施行される育児介護休業法の改正は、働きながら育児や介護を行う人々にとって大きな支援となり、企業にとっても、人材不足の解消や生産性の向上にもつながります。企業がこの改正に対応するためには、早い時期から従業員個々の要望を把握し、それに基づいて柔軟な制度を整備することが不可欠です。
コロナウイルス感染対策として急拡大したテレワークですが、テレワークの継続を希望する人は現在も8割を超えています。今回の育児介護休業法改正で注目された「テレワーク努力義務」は、対象となる従業員の子の年齢制限に関する議論はあるものの、未導入企業にとってテレワーク検討のきっかけとなり得る重要な契機となるでしょう。
ただし、テレワークの対象者が育児・介護期の社員に限定されたままでは、周りへの気遣いなどからテレワークが活用されなくなるケースも多くみられます。テレワークの効果は多岐にわたり、社会、企業、就業者それぞれにプラスの効果があります。育児介護休業法のテレワーク努力義務はあくまでテレワーク導入のきっかけととらえて、導入後は少しずつでもいいので、対象者を拡大していかれることをお勧めします。
小規模事業所や現場のある企業のテレワークの導入・推進方法や、不公平感、コミュニケーション、労務管理についての課題解決方法については、また別のコラムにてお話させていただきます。
東京テレワーク推進センターにおける各種事業や、総務省・厚生労働省事業テレワーク・ワンストップ・サービスの「テレワークマネージャーコンサルティング(※)」では、企業規模に限らず、無料で情報提供やご相談が可能ですのでご活用ください。
東京テレワーク推進センター
https://tokyo-telework.metro.tokyo.lg.jp/
総務省・厚生労働省事業テレワーク・ワンストップ・サービス
「テレワークマネージャーコンサルティング(※)」
https://telework.mhlw.go.jp/info/pdf/tw-potal-leaflet.pdf
※武田もテレワークマネージャーとしてご相談・コンサルティング対応させていただいております。
社会保険労務士法人NSR
ワークエンゲージメント推進室
CWO社会保険労務士 武田かおり